はじめに
いつもは使いやすい鍬なのに今日は鍬を使っていると何だか力が入らない・・・よく見ると鍬の柄差し部分と柄の部分に隙間が出来て鍬がガタガタしてるじゃないですか。これではどんな良い鍬でも使い物になりません。では、どうすればいいか?
よく聞く対処方として、鍬を水に浸けて柄を膨らませてから使うという方がいます。これは一時的には有効ですが、ずっと続けていると柄が朽ちる原因になるのであまりオススメできません。
他には、ヒツ(鍬の柄差し部分)にドリルで穴を開けて釘やネジで固定するのも止めた方がいいですね。柄が外れないというだけでガタツキが無くなる事は無いでしょう。むしろ柄を抜きたい時に抜けなくなって困るだけです。
じゃあ、どうしましょうか?
クサビを打ちましょう!
しっかりとクサビを打っておけば、当分安心して鍬を振るう事が出来るでしょう。
クサビの種類
これは平クサビと呼んでいるものです。柄がガタガタするということは柄とヒツの間に隙間があるということなのでそれを埋めてしまうのが平クサビの役目になります。
逆にこういったトンガリクサビは柄の中に打って柄を張らせることによって柄を固く留めるクサビです。
ときどきクサビの代わりに山ほど釘を打ってある鍬を見ますが、柄が傷むだけで何の効果もないので止めた方がいいです。あ、ボルトでもダメですからね。テーパーになっていないと何の意味もありません。
クサビの打ち方(基本編)
柄がグラグラしてちょっと使ったらすぐ抜けてしまいそうな状態です。鍬の柄は管理状態や経年劣化によってこうなることがよくあります。
柄が抜けそうならいっそ抜いてしまってください。
古いクサビが入っている場合は取ってしまい、柄の痛んでいる部分はノコギリで切り落としてください。このとき、木工用ノコより、鉄工用ノコを推奨します。切った時、木の中に別のクサビが入っていた場合、木工用ノコだと一発でノコが駄目になってしまうからです。
まあ、だいたいはクサビが取れないと思うので最初から鉄工用ノコでクサビが入っているであろうギリギリのところを切り落としてください。
そして、改めて柄を鍬に差し込んでください。
まず、手順としては、鍬の柄差し部分より2~3ミリ柄を出しておきます。そして、柄差し部分の上か下かに平クサビを打ち込みます。
少しでも低い角度で使いたい場合は下側に打ちます
少しでも高い角度で使いたい場合は上側に打ちます
これはお好みで決めてください。
しっかりとクサビが見えなくなるまで打ち込んでください。もし、途中でそれ以上入らなくなったらハンドグラインダーか鉄鋼ノコで切り落としてください。上下の隙間が無くなったら、次は左右の隙間にクサビを打ち込みます。
その前に!刃を自分の方に向けるようにして、鍬を立てて置いてみてください
まっすぐ立っていますか?左右どちらかに傾いていませんか?柄が傾いていると鍬を使うときにまっすぐ打ち込みにくいので、出来るだけ柄の傾きがないようにしたほうが良いです。なので、
右に傾いているなら、左側にクサビを打ってください
同様に左に傾いているなら、右側に
このように上下の隙間にクサビを打つ事によって鍬の角度を調整し、左右の隙間に打つクサビは柄の傾きを調整することができます。そして、きっちり隙間なくクサビを打ったら最後に真ん中にトンガリクサビを打ち込みます。
トンガリクサビをしっかり最後まで打ったら出来上がりです。
余談ですが
営業先で、あるお婆さんが『鍬が何か難しいんよー、全然切れんのんよー』と言って板鍬を見せてくれました。よく見ると柄が痩せて鍬が少しガタガタ動くような状態だったので、手持ちのクサビで動かないように固く留めてあげました。
後日そのお婆さんに会ったときに『よう切れるようになってみやすうなったわ~(広島弁で使いやすくなったの意)』と言ってすごく喜んでいました。私は【クサビ打っただけで別に何もしてないんですが。。。】と内心こそばゆい思いをしたものです。ですが、それくらい使う方にとっては大きな違いがあるのかと思い知った出来事でもありました。
このように鍬がガタガタするという事は使う人にとって大変なストレスになるのでしっかりクサビを打つようにしたほうがよいでしょう。
次はもう少し細かく説明していきます。
鍬と柄の隙間が広い場合
このように柄とヒツ(鍬の柄差し部分)の間に大きな隙間が空いています。ちょっと普通のクサビを入れただけでは固く留める事は難しそうですね。この場合、いくつかの方法があります。
太いクサビを入れる
標準のクサビよりかなり太めでヒツよりも長いクサビです。唐鍬や山鍬といった丈夫な鍬に通しで入れるクサビですが横幅などのサイズが合うなら入れてしまっても構いません。クサビをしっかり打ち込んで固く留まればこれで大丈夫。
こういった太いクサビでも固く留まらないという場合は次の方法です。
クサビを2枚入れる
先程の太いクサビを入れたまま、今度はヒツの上側にもう1枚平クサビを入れます。 このようにヒツの上下にそれぞれ1枚ずつクサビを入れて固く留めます。片側に2枚入れてしまうとクサビが抜けやすいので上下に1枚ずつ入れるのが好ましいです。
これでもまだ鍬が固く留まらない、もしくはこんなクサビが無いという場合は次の方法です。
木のクサビを入れる
このようにヒツの隙間に合わせて木を削って杭を作ります。瀧川鉄工所では、いらなくなった古い鍬の柄を削って作っています。出来るだけしっかりした木の方が良いですね。これをヒツの隙間に入れます。
万力などで固定しておいてしっかり叩き込みます。固くなると手応えで分かるのでそこで下の画像のように切り落としてください。
そして、木のクサビと柄の間に鉄の平クサビを入れてください。木のクサビだけではしっかり留めてもすぐに痩せてしまうからです。
このように柄を割らないように上手にいれてください。
この場合、ヒツの長さより少し長いクサビを入れて通しておいた方が効果的です。
そして、出過ぎた木のクサビをヒツより少し出るくらい残してカットします。こうしておけば、木のクサビでもかなり長い間しっかり鍬を留める事ができます。
応用編
先程、平クサビを2枚入れて鍬を固く留める方法を書きましたが、次はその応用編です。このように片側に大きなクサビを入れてしまうと鍬が傾いて使いづらくなってしまいます。
なので下の画像のように同じ厚みのクサビを両側に打ち込む事によってバランス良くヒツの隙間を埋める事ができ、鍬を傾かせる事無く固く留める事ができます。
ということは2本のクサビの打ち方によっては微妙な角度や傾きの調整も出来るということになります。
例えば柄を握った時に右に傾いていると感じて左側にクサビを打ちますが、クサビが効き過ぎて逆に右に傾いてしまった!ということがよくあります。そういうときは薄い平クサビを2枚使って右に短く、左に長めに打ち込んでやると絶妙な角度の調整ができるのです。上下の角度の調整もこの方法で行えます。
ヒツの形状にもよりますが、このようにクサビの長さや厚みを変えることによっていろいろなパターンの調整をすることが出来るのです。ここまで来るともうパズルのようですが、慣れてくると勘で出来るようになってきます。そしたら、もう職人ですけどね。
他にはこういう方法もあります。
最後に
ややこしいことを色々と言いましたが、一番大事なのは鍬がガタガタしないようにしっかり留める事です。とにかく隙間をきっちり埋める事が大事!角度や傾きが丁度よいからといって打ち方が甘いとまたすぐにガタガタになってしまいます。
角度や傾きを思うように調整するには色んな種類のクサビと経験が必要になってくるので、最初から簡単にはできません。なので、上下左右の隙間を埋めて真ん中にズドン!これだけ覚えておけば大丈夫です。
それでは皆さん良き鍬ライフを~!