地域差による四つ鍬の変化

鍬の鍛冶屋の営業範囲

瀧川鉄工所の営業範囲はだいたい竹原から片道1時間くらいで行ける距離が限度なので、竹原市、三原市、東広島市、世羅郡、呉市、三次市、尾道市あたりになります。この範囲を1年くらいかけて農家の家々をまわり、お仕事を頂いています。そして、それを何十年も繰り返してきました。

東広島市、竹原市、呉市、三原市、世羅郡、三次市、尾道市を黄色で塗りつぶした広島県地図

瀧川鉄工所の営業範囲

なので、これだけの範囲を長い間まわっているといろいろ面白い事が分かってきました。

鍬の寸法の地域差

同じ四つ鍬でも地域によって長さや爪の幅が違います。

ちょっと語弊がありましたね。

同じ四つ鍬でも地域によって長さや爪の幅の好み違うのです。

柄の付いていない綺麗な四つ鍬

瀧川鉄工所の鍬の修理を行う場合に基準とする寸法でいくと、沿岸部はだいたい八寸五分(竹原は八寸)【一寸は約3.3cm】それから呉から西に向かっていくにつれてもっと長くなり一尺くらいの鍬を使っている方もいました。爪の幅は細めが好まれます。

今度は竹原から車で30分ほど北上していくと、東広島市河内町、福富町、豊栄町あたりから八寸になってきます。そして爪の幅も広くなります。

さらに北上し、世羅郡に入ると鍬の長さ七寸五分、爪幅も広めです。

そして、三次市に入るあたりからなんと鍬の長さが七寸になってしまいます。爪幅は沿岸部並に細いのが好まれます。私も初めて七寸の鍬を見たときは『こんなに短くて大丈夫ですか?長めにしましょうか?』と言って驚いたものです(笑)

ですが、三次の農家さんに八寸五分の鍬を見せると『長いねー!』と逆にびっくりされてしまいます。勝手に長くしたら怒られるくらいです。

これらの寸法は地域ごとに昔から根付いているものでウチの鍛冶屋が押しつけたものではありません。どうやら、土質や耕作方法に関係があるようです。

七寸の鍬を使う農家の方にお話を聞いたところ『このあたりは重粘土層だから深く打ち込んでも重くて上がらない。だからこの鍬でいい』と仰っていました。

また、八寸五分の鍬を使う沿岸部のジャガイモ農家さんは『鍬が短いと芋を切ってしまうから長い方がいい』というお話も伺いました。

同じ県内でもこれだけの差があるわけですから、日本全国北から南、多種多様な鍬があるのもうなずけますね。

鍬を買いに行って、あるものをそのまま買ったのはいいが難しくて使えなかった。という話をよく聞きますがこういう事にも原因があるのではないかと思います。

なので、鍬を選ぶ際には自分の住む地域の土質や耕作方法を少しでも知っておけばだいたいの方向性が決まってくるのではないでしょうか?

それでは皆さんよき鍬ライフを~!