ゲンノウ(玄能)の柄を入れる方法

ゲンノウ(玄能)とは?

先が割れた柄の差してある丸くなったゲンノウ

ここにお客さんから預かった一丁のゲンノウがあります。長年の使用で角が取れて丸くなり柄もボロボロです。

一口にゲンノウと言ってもいろいろありまして、これは石工さんが使う方のゲンノウです。ハンマーのように見えますが石工さんのゲンノウは石を斫る(はつる・・・削るに近い・・かな?)道具です。

石工さんの依頼ならばゲンノウを叩き直してしっかりと角を立てて焼き入れし、よく切れるように本来の姿に戻すのですが、今回は農家のお婆さんの依頼でして、これで畑の杭を打つのに便利なので柄を新しいのに換えて欲しいという事です。昔は農家の方でも自分で石垣をついたりしていたので、ゲンノウを持っている農家の方も珍しくありません。そして、丸くなったゲンノウをハンマー代わりに使っている人は結構多いです。

では、ゲンノウの柄を換える作業を始めたいと思います。で、ゲンノウの柄ってどこで売ってるか知ってますか?・・・・・・正解は・・・

売ってません!自分で作るのです!

玄能の柄を作る

昔から玄能の柄に適しているのは【ぐいびの木】といわれています。

瀧川鉄工所では【桜の木】で玄能の柄を作っています。これもいい柄になります。ウチには桜の木が一本ありまして、枝が伸びすぎて隣の敷地にはみ出ていたので、剪定して枝を切り落とした事があり、そのときに柄になりそうなのを選んで保管しています。

【ぐいび】又は【桜】の枝を1年以上乾燥させます。すぐに加工して柄にすると曲がってしまうからです。

これが乾燥させた枝です。大分曲がっているので直さないといけません。

蛇行気味に曲がっている桜の枝

蛇口から出る水で濡れている桜の枝

曲がっている辺りに水をかけて濡らしておきます。そして、そこを火で炙ります。

火で炙られている桜の枝

ウチでは火床の火で炙りますが、七輪などでも大丈夫です。同じ所ばかり火に当てすぎないように出したり入れたり、回したりしながら炙ってください。最後に皮を剥くので、少し焦げるくらいまで炙っても大丈夫です。しっかり炙って熱を持たせてください。

余談ですが、桜の枝を炙るとすごくいい香りがします。燻製には桜のチップを使って香りを付けるという話を聞いた事がありますが、なるほど納得です。

枝が熱いうちに曲がっている部分の手前辺りを万力で挟んでゆっくり力を入れて曲がりを矯正していきます。直ったと思っても時間が経つと元に戻ってしまうこともあるので、一回で直そうとせずに日を置いて少しずつ何回も繰り返してください。何度か繰り返せば使えるような柄になってくるはずです。完全にまっすぐにするのは難しいと思うのでそこそこのところで妥協しましょう。

万力で挟んである桜の枝

そして、使えるような柄になったら皮を剥きます。

皮を剥かれた桜の枝と前チョウナと木工ヤスリ

瀧川鉄工所では画像奥にある【前チョウナ】で皮を剥いて最後に木工ヤスリをかけて仕上げます。皮を剥く道具がなければ最初から木工ヤスリで削っても問題ないです。ちょっとしんどいですけどね(苦笑)

柄を差して横向きに置いたゲンノウ

あとは玄能にしっかりたたき込んでください。

石工用の玄能の柄の差し方は柄だけで固く留めるのが基本です。

固くなるまでたたき込んだときにヒツから出た部分は切り落とします。それはゲンノウは振り子のように使う事があるのでヒツから柄が出ていると邪魔になるからです。そして、玄能の両方の頭同じ角度で使えるようにするため柄の曲がりによって角度が付かないような向きで柄を入れてください。簡単に言えばTの字に見えるように差せばOKです。