押し切りの管理について

押し切りとは

藁(わら)の束を刃と押し棒の根元に挟んで、押し棒を下ろすと一気に両断してくれる便利な道具です。ウチの鍛冶屋でも年に何台も修理しています。

地面に置かれた押し切り

押し棒を上げた状態の押し切り

日々の管理

押し切りは刃物です。錆びてしまうと切れ味が悪くなったり最悪の場合動かなくなってしまいますのでしっかり油を塗っておきましょう。特に重要なのは根元の回転部分と刃と押し棒の摩擦部分です。木の台に垂れた油は出来るだけ拭き取っておいてください。

常々油を木につけてはいけないと口を酸っぱくして言っている自分ですが、この押し切りに関してだけはもうしょうがないです。とにかく油を切らさないようにしておいてください。

置き場所も使わない時は屋内に置いておくことをオススメします。使う前に油を差して、使った後はゴミや汚れを取ってまた油を差しておきましょう。

大分昔、お客さんにこう言われて怒られた事がありました。

『鍛冶屋さんに押し切り修理してもらって置いてたら錆びて切れなくなったよ!!』

!!!

あまりの衝撃で鼻から牛乳が出そうになりました。

・・・・そりゃ鉄と鋼で出来てるんだから錆びますよ、トホホホ・・・・

そんな事があって以来、押し切りを引き渡す時はお客さんがあきれるくらい手入れの仕方をしっかり説明するようにしています。

定期的なメンテナンス

いくら丁寧に管理していても使い続ければ少しずつ切れ味が悪くなっていきます。切れなくなった原因は色々ありますが、だいたい次の事が起こっています。

  • 刃が摩耗、または欠損している。
  • 押し棒の隙間が広がっている。
  • 押し棒の内側の角が摩耗して丸くなっている。

さて、いろいろ修理・調整しなければいけないので分解してしまいましょう。 押し切りは文字通り押して切るだけの実にシンプルな構造なので簡単に分解することができます。

昔の道具というのは修理することも考えて造られているので直す者にとっては本当にありがたい事です。造った人によって少しずつ違いがありますが、だいたいボルト2本も外せば分解できるような仕様になっています。

分解してパーツに分けられた押し切り

画像左上から、その下がカバー、真ん中が押し棒、そしてです。正式名称は知りませんが、押し切り自体もいろいろな呼び方があるみたいです。

『鍛冶屋さん、デッチメ修理できる?』と言われて頭が真っ白になっているところに押し切りが出てきた事がありました。未だに語源がわかりません。

刃の摩耗、欠損

よく切れるようになるまでしっかり研いでおきます。

きれいに研がれた押し切りの刃

押し棒の調整

押し切りは刃さえ研いでいれば切れると思っている方が多いのですが、そうではありません。押し棒もものすごく重要なのです。押し切りは刃と押し棒のすり合わせで切るので押し棒の隙間が広がっていたり内側の角が丸くなっていたりすると藁が挟まってしまって切れなくなってしまいます。

地面に置かれた押し切りの押し棒

ウチでは刃とピッタリ合うように押し棒の隙間もきっちり調整するのですが、ちょっと難しいのここでは一般の方でも出来るメンテナンスの方法をお伝えします。

押し棒の反対側を使う

ここにカバーの付いた押し棒がありますが、カバーを外してしまいます。大丈夫、取り外し出来るように造ってあるので簡単に外れます。

地面に置かれたカバーの付いた押し棒

地面に置かれた押し棒とその上にあるカバー

はい、これを今度は反対側につけてみましょう。今までずっと同じ面で切っていたのでカバーのついていた側の内側の角はしっかり残っているはずです。

地面に置かれた押し棒とその下にあるカバー

実は押し切りは最初から両面使えるような仕様になっているのです。

そして、刃も同じ事が言えます。刃の使う部分はだいたい根元から半分くらいまでなので切れなくなったら外して逆にすればいいだけなのです。いやあ、本当に合理的に造られてるなぁと修理する度に感心しますね。

台の上に置かれた修理された押し切り

以前お客さんから、

『鍛冶屋さんに押し切り研いでもらったらよく切れたわ~!』

「どうもありがとうございます!」

『大きいがカボチャが簡単に切れたんよ~』

「!!!!!!」

あんまり固い物を切ると刃が欠けてしまうのでお気を付け下さい。