闘う男 O氏
まず、今日の出来事を話す前に彼の事を説明しなくてはいけません。
彼と知り合ったのは数年前、農作業中に声を掛けた事から始まります。30そこそこの若者が専業農家というのも珍しかったのですが、親の代から農家という訳ではなく、自分から農業をはじめたという農業が大好きな青年です。
そして、昔ながらの農業を目指しており失われかけている先達の農業技術を後の世に残して行くために古い農具や知識の収集をしています。実際彼の家には民俗資料館が開ける位の農具が集まっています。
他にも竹原の干潟の保存運動、産廃処理場建設の反対運動など環境の保護などの活動も精力的に行っているようです。こういう風に書くとちょっと尖ったイメージに捉えられるかも知れませんが、誠実な人柄で物腰の柔らかい好青年です。
実は去年参加した【有機農家の収穫祭】は運営委員をされていたO氏に誘われたものです。
鍛冶屋とO氏
今日は朝から2人で東広島市の赤崎に来ております。
先日お客さんと話していると古い農具があって処分したいという話になったので、それならば農具収集家のO氏にその話を持ちかけてみると是非欲しいということになり、2人でそのお宅に伺うことになりました。
「おはようございます、今日はよろしくおねがいします。」 目的のお宅に到着して2人でお婆さんに挨拶します。
するとO氏の目がキラリ!さっそく何かを見つけた模様です。
「こ、これは!」
古いカーバイトランプです。昔、タコを捕る時に使っていたらしいです。
「すごい状態がいいですねー」
『要らないから持って行っていいよ』
「本当ですか!ありがとうございます!」
すごくうれしそうです。
今回の主な目的はこの唐箕(とうみ)を引き取る事です。これは人力で玄米とモミを選別する為の道具です。土台の足が少し痛んでいますが状態は良好で、現在でも使用は可能のようです。
そして、納屋の中でO氏の目がまたキラリ!
稲掛け(はせがけ)といって稲を乾燥させる時に使う三本足なのですが、その削り方に興味をもったらしくお婆さんに質問をしていました。その真剣な眼差しにお婆さんもタジタジです。
次に頂いたのが唐竿(からさお)です。これは乾燥した殻つきの大豆をこの竹竿の先に付いた木の束をくるくる回して叩く事によって中の大豆が出てくるという道具なのです。
そして、万石通し(まんごくとうし)と言って籾と玄米などを選別していた道具や
左から田んぼの表面を平らにする代掻き(しろかき)、田んぼの畦を塗る鋤簾鍬(じょれんぐわ)、
荷物を載せて背負う背負子(しょいこ)
さらに天秤棒の端につけて荷物を載せる【えんぼう】という物まで譲って頂きました。ここでO氏が鼻息荒く「この編み方が知りたかったんですよ!」と興奮が止まりません。だんだんお婆さんの体力が心配になってきました。ですが、O氏の知的好奇心は留まることを知りません。
土壁を見ては藁の入り方に感心したり、
干し大根の作り方を習ったりと本当にすごいバイタリティです。昨晩遅くまでゲームしていた自分が恥ずかしい・・・。
農具や知識、そして貴重な経験話を沢山いただいてO氏は大満足です。中でも一番嬉しかったのは、この家でずっと作り続けているそうめん瓜の種だそうです。一度見せてもらった事があるのですが、彼の家の納屋にある冷蔵庫の中には各地で作られていた野菜の種が沢山保存されています。
自分はこれを『ノアの箱船』みたいですねと冗談っぽく笑っていましたが、こういう地道な行動が未来の農業を支えていくのかなと今日感じました。
余談ですが、自分はミカンを頂きました。去年亡くなられたご主人が挿し木をして品種を改良したミカンです。やっと実がなるようになってきたんよ、と言って頂いたミカンはびっしりと実が詰まっていて、上品な甘さがあって今まで食べたどのミカンよりも美味しかったです。