最近の農具事情
農業従事者の高齢化に伴い、昔は一日中鍬を振っていた方もだんだんと重い鍬が使えなくなってきます。
『もう鍬が使われんようになったわ』
そう言って寂しそうに笑うお客さんも少なくありません。それでも自分が使える軽い鍬を持って田畑に出て精一杯仕事をされています。その為か最近の鍬の修理と言えば軽く、とにかく軽く、そういう注文が目立ってきました。
また、高齢の夫婦だけでは田畑を維持できなくなり農業法人に預けて残った小さな畑で気楽に野菜を作るという方も増えています。
なので鋤簾や三角ホーなどの軽い鍬で全ての作業をこなされる方も多くなってきました。最近ウチの鍛冶屋でも三角ホーの修理や新調、鋤簾の先掛けの注文が増えています。
先日も高齢の女性から板鍬の修理を預かったのですが、『もっと軽くならんかのう』と言われ、自分が手に持ってみるとかなり軽い部類の板鍬でした。
「もうこれ以上は軽くなりませんよ」と言うと『肩が痛くてのう、それでも重たいんよ・・・』と切なそうなそうな顔をされていたのが忘れられません。
鍛冶屋、脳みそを使う
そういうこともあり最近よく考えるのは畑を打つ、削るといった作業が一丁で出来て、尚且つ高齢者でも扱える軽さの鍬が出来ないだろうか・・・そんな万能鍬が出来ればきっと喜んでもらえるに違いありません。
ですが、もともと鍬って色々な作業用にに特化されて今の種類があるわけでそれを合体させようとするとどうしても重くなってしまいます。例えば山打ちとツルハシを合体させたバチツルが良い例です。
考えては行き詰まり、脳内で大冒険です。いろいろ考えを巡らしてみますがどうにもいい感じになりません。そりゃそうですよね、多機能にすれば部品が増えます。あまりごてごてすると美しくありません。
やはり物作りはFunction is Beauty(機能美)、つまり美しくないということは性能も良くないということです。そもそもに軽いのが大前提なので出来るだけシンプルにしなければいけません。
そんなこんなである日のこと、
うーーーん
うーーーん
うーーーん
お!
ベタですが、なんとなくイメージが降ってきました。
さっそく脳内のぼんやりとした設計図に従って造っていきます。
試作1号機なので寸法など、いろいろ調整の余地はあると思いますが、概ねイメージ通りの鍬が出来上がりました。
二本の爪と良く切れる薄い刃を備えています。樫の柄を付けると重くなってしまうので
鋤簾の柄を付けてみました。
持ってみると、おお軽い!今まで造った鍬の中でも最軽量だと思います。しっかり焼き入れ(熱処理により強度と切れ味を持たせる事)してあるので簡単に曲がったりすることはありません。切れ味も良好です!
耕す場合は二本の爪で行い、草を削ったりする場合は反対側の刃を使います。庭先の畑仕事くらいであればこれ一丁でだいたい賄えるはずです。
勘だけで造ったにしてはバランスが良い感じなので寸法を取っておきました。
あとはお客さんに使っていただけるように地道に営業回りしていくだけですね。見た目が斬新なので定着するまで時間がかかりそうですが・・・(苦笑)
あ、鍬の名前どうしよう・・・。
取りあえず軽量万能鍬としておきますかね。