大きな火箸を造る

鍛冶屋の火箸(ひばし)

火箸とは高温で熱せられた金属を掴む為の道具で、鍛冶屋の命と言ってもいいくらい重要なものです。

1000℃近い高温の炉にくべられた鍬や金属を丁度よく掴む為に、

その形状も特化されたものばかり。

用途に合わせて様々な種類があり、仕事に合わせて使い分けています。

そして、足りない火箸はその都度造ってきたので、その数は数十丁ほどあります。

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こんなものを使うのは鍛冶屋くらいでしょうし、

鍛冶屋なら自分の道具は自分で造ります。

なので、火箸の製作依頼が来るとは思ってもみませんでした。

初めての依頼

火箸を造ってもらいたい』

と電話で依頼を受けた時には、

焼却炉の灰かきとか、

火鉢で使う火箸かなと思ってしまいました。

よくよく話を聞くと製鉄所で鋼材を掴む為の火箸のようでした。

見本の写真を見てみると、

なるほどこれは使い込まれた職人の道具です。

頂いた図面を見ると、全長53cm。

かなり大型の火箸です。

うちにもこんなに大きな火箸は数丁しかありません。

サンプルで送ってもらった鋼材も重いですね。

かなり丈夫に造らないといけません。

そういえば見本の火箸も何か所も修理跡が見られます。

頭を使う鍛冶屋

まずは頂いた図面を原寸大に書き起こしてイメージを固めます。

普段はケセラセラでやってますが、

今回は慎重に作業を始めます。

この火箸はハサミと同じように対称な2つの部品を造って

一本の芯で留めて使うというシンプルな構造になっています。

シンプルがゆえに難しい。

そして、重い(泣)

少しずつ叩いては図面と見比べ、叩いては見比べ、

心身ともに疲労が尋常じゃありません。

とはいえ私も職人の端くれ、

形はなんとか出来ました。

しかし、これで完成としてしまっては、

仏を造って魂込めず!

一番大事なのは指定されたものをしっかり掴めるかどうかです。

預かった鋼材を挟んで、うまく掴めないと焼き直して叩いて調整。

もうちょっと、もうちょっと、

とあちこち微調整を加えて

やっと満足のいく掴み具合になりました。

これで喜んで使っていただけると嬉しいですね。