瀬戸内の鍛冶屋
瀧川鉄工所のある広島県竹原市は海に面しており、
近辺の町でも漁業が盛んに行われております。
鍬の鍛冶屋と自ら銘打っていますが、時々漁具の注文も受けることがあります。
牡蠣打ち
これは固い牡蠣の殻の隙間に刃を差し込んでこじ開け、
むき身にする為の道具です。
その牡蠣をむき身のする作業を牡蠣打ちといい、
それに使用される道具もまた牡蠣打ちと呼ばれています。
水産加工場などで牡蠣打ちに従事される方を打ち子(打ち娘)と
呼び一日で数千個の牡蠣をむき身にするそうです。
打ち子の方は元気な方が多いので納得してしまいますね。
まさに牡蠣の名産地ならではの道具です。
そして、広島県三原はマダコの産地としても有名です。
そのため、このような道具も必要になってきます。
何かのヘラ
使い込まれた道具ですが、一体何に使うのでしょうか?
薄いヘラのようなもので、先端はさらに薄く刃のようになっています。
タコ漁は狭い所に隠れるという用心深いタコの習性を利用し、
あらかじめ海底にタコ壺を沈めておき、入ってきたタコを獲るという漁法です。
そのためタコ壺にはフジツボなどの貝が付着していまいます。
きれいなタコ壺をそうでないものでは漁の結果に差が出るらしく、
定期的に掃除しないといけないそうです。
そのこびりついた貝殻をこそぎ落す為の道具がこのヘラという訳です。
そう、これは使い込まれたタコ壺掃除用ヘラなのです。
そのまんまですね。
調べてみましたが、特別な名称はないみたい。
今回の依頼はこのヘラの製作です。
タコ壺掃除はかなりの重労働らしいので、
よく切れて出来るだけ丈夫なものを造らないといけません。
これが瀧川鉄工所で新しく作ったヘラです。
鋼を薄く叩きのばしてしっかり焼き入れしてあります。
漁師さんが喜んでくれるといいですね。
このように海辺の野鍛冶は農業だけでなく、
漁業にも縁が深いのでしたというお話でした(終)