ここは瀧川鉄工所。広島県竹原市、その町外れにひっそりと佇む鍛冶屋です。
ここには農具について色んな悩みを抱えた方が訪れますが、今日は一体どんなお客さんがやってくるのでしょうか。
柄の付いた鉄の棒
おや、 これは一体なんでしょう?
座頭市の仕込み杖ではありません。お客さんは突き棒と呼んでいました。畑に杭などを打つ時に穴を空ける道具として使っているようです。昔はこれでゴボウを掘っていた事もあるそうです。
最近ではホームセンターなどで売られているトンガリと平テコのついた金棒を使っている方が多いですね。
しかし、これはなかなか良い道具です。細部にわたって良い仕事が施されています。
先代から使われていたにもかかわらずグリップの部分も緩みもガタツキもありません。
そして、この柄と金属部分のつなぎですがパイプに差し込んであるのではなく薄くのばした鉄板を円筒形に巻いて柄差し部分を造って柄を差し込んであります。
驚くべき事に今まで抜けた事は無いそうですが、残念な事に農作業中に先端が折れてしまったようです。
というわけでこれを直すのが今回の依頼になります。
昔の職人さんの心意気を感じる道具なのでこちらも負けてはいられません。気合いをいれて取りかかります。
はい、出来上がりました。
鋼を足してしっかり焼き入れしてあるのですっかり新品同様です。これでまた当分は心配ないでしょう。
やはり良い物を直すのは気持ちがいいですね。
おっと、またお客さんのようです。
手鍬のような物
さて、今度はなんでしょうか。
どうやら海でアサリなどを掘ったりする貝掘りのようです。なんと20年以上愛用してきたらしく片側だけ極端に摩耗しています。今回の依頼はこれと同じ貝掘りを2こ造って欲しいとのことです。
おや、そういえばウチにも同じような手鍬があるので勧めてみました。
どうやらこれでは重いようです。というより、見本で持ってこられた貝掘りが軽すぎるのですよ。よし、わかりました。造ろうじゃありませんか。
一見、簡単な造りに見えますが、簡単そうな物ほど難しい。コレ親父の口癖です。
実際このお客様、以前にもよそでこの貝掘りと同じ物を造ってもらったそうなのですが、全く使い物にならなかったそうです。右が見本で左がそれです。
見た目はおなじように見えますが一体なにが悪かったのでしょうか?
それはこの貝掘りの刃がただの鉄板だからです。見かけだけ真似て適当に造ったようですね。
ただの鉄板では20年も使用に耐えられる訳もなくあんなにきれいに摩耗してくれません。そうとう硬い材質のようです。
だいたい材料に見当がついたので造っていきたいと思います。
刃はもちろん、胴体部分も曲がらないように特殊鋼で造ります。
柄は樫の柄では重すぎるので軽い木を使います。そして、ボルトや釘は不使用、差し込むだけで柄を固く留めなくてはいけないので穴の開け方にも注意が必要です。
出来ました!超軽量貝掘り完成です。
なるほど、簡単そうな物ほど難しい・・・確かに。