火箸をつくる

鍛冶屋の秘密道具

『おたくの鍬は角度がぴったりで使いやすいねー』

と修理した鍬の角度を褒められる事がよくあります。切れ味ではないのかと拍子抜けするのですがそれはそれで嬉しいですね。

使い古した鍬を修理する為に一旦柄から外し、曲がったり折れたりした鍬を修理し、また柄を差します。基本的に元通りの角度にしなくてはいけません。

鍬の角度は人それぞれ。慣れた角度が変わってしまってはどんな修理も水の泡なので、角度を変えないようにしっかり体感で覚えておくことも大事ですが、鍛冶屋には便利な道具があるのです。

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これは瀧川鉄工所では火箸と呼んでいる道具です。これで鍬を挟んで角度を調べる、また合わせる事ができます。

火箸にもいろんな種類があってこのように角度を見る為の物、薄い板鍬をしっかり挟む火箸、厚い山鍬や丸い玄翁専用などなど、沢山の種類があります。

自分もまだ一度も使った事がない火箸もいくつもあります。

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真っ赤に焼けた鉄を素手で握ることはできません。必ず何らかの火箸でつまんで仕事をしています。

祖父の代から必要な時に必要な火箸を造ってきました。そうです、こんな物はどこにも売っていません。全て手造り、手打ちなのです。そして、その一つ一つにちゃんとした役割があって無駄な物などありません。

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ですが、普段使う火箸は大体決まっています。よく使っている物はだんだん摩耗していき、件の角度を合わせる火箸も日々の使用によってだんだん精度が甘くなってきました。

これもゴルフクラブ以上に種類があるのですが、一番よく使う火箸がどうもいけません。しっかり挟めなくなってしまったり、はさみ方で角度が違ったりと、悩みの種になっていました。

アレじゃない、コレじゃないと鍬に合う火箸を決めるときに親父と毎回揉めるのも不毛なので新しく造る事にしました。

トンテンカン♪トンテンカン♫

トンテンカン♫

はい、できました。

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祖父や父が造った火箸に並べられるのはちょっと恥ずかしいですが新しい火箸がまた一本、瀧川鉄工所の歴史に加わりました。

角度を変えてもっと何本も必要なんですが、また時間のあるときに造りたいと思います。