最初に
あらかじめ言っておきますが、瀧川鉄工所は野鍛冶、農具の鍛冶屋です。ハサミに関してはほぼ門外漢、ハサミにはちゃんと鋏鍛冶という専門の職人さんがいます。
今回の記事は専門職の知識ではなく、素人の小細工と思って頂ければ幸いです。
切れそうで切れないハサミ
ウチは農具の製造はもとより刃物研ぎも生業としているので、
ときどき裁ちバサミの研ぎの依頼を受ける事があります。
研ぎ自体は問題ないのですが、刃がよく研ぎ澄まされていればハサミとして機能するかと言えば必ずしもそうではありません。
いざ布を切ると部分的に切れない、なんてことがよくあります。
これは刃の合い、かみ合わせというのでしょうか、二枚の刃が根元から先端まで絶妙に擦り合わさって初めて切れるようになるのですが、それが上手くいかないことがあります。
さて、今回研ぎ上げたこの裁ちバサミですが、きれいに仕上がっています。
ただ、
切れません・・・
なぜでしょうか?
これを見てください。かなり刃が細くなっています。
元の形はこれくらいはあったはず。
持ち主の話だと1~2回しか研ぎに出してないそうです。
ふつうに研げば数回ではここまでえぐるような事にはなりません。
きっと失敗して見かけだけ整えて返したのでしょう。
慌てて研いだような大きなカエリ(研いだ反対側に出る金属の薄皮)が刃先に残っていました。
最初に見たときにいやな予感はしたのですがやっぱりですね。
刃のかみ合わせがおかしくなっているのです。
下図は別のハサミです。
閉じているときは分かりませんが、開いた状態で見てみると、
刃先が交差しているように見えるはずです。
このように閉じていくにつれて刃が擦り合い布が切断されていくのです。
なので最早、研ぎだけでは件のハサミが切れるようにはなりません。
ここからが今回の本題です。
鍛冶屋禁忌を犯す
こうなっては無理矢理かみ合わせを矯正するしかありません。
剪定バサミでときどき使う荒技です。
ハサミ職人が見たら怒るかもしれませんが、万力に挟んで曲げてしまいましょう。
左右の刃を少しずつ、様子をみながら曲げていきます。
ちょっと曲げてはチョキチョキと刃を開いたり閉じたりしてみます。
すると刃が擦り合うのが分かるようになってきます。
ただし、やり過ぎは禁物、
曲げ過ぎればばお互いの刃が食い込んで刃が閉じなくなってしまいます。
そして、一番怖いのは刃が折れてしまう可能性があるということです。
なので先端は慎重に力を加えます。
ここはもうペンチで軽く少しずつ。
神経をすり減らしてやっと全体の擦り合わせが良くなりました。
布を切ってみるとが最初に比べ、段違いに切れるようになりました。
最後に
先端の折れたハサミをよく見かけることがあるので、この方法は本当に恐ろしいですね。
裁ちバサミの製造工程を見たことはありませんが察するに、鋳物、可鍛鋳鉄だと思います。
熱処理がされているかはハサミによって違うと思われますが、ポロッと折れる危険がありますので自分の責任と覚悟を持って行ってください。
では、くれぐれもお気を付けて。