ただ朽ち行く姿に
農家の納屋の隅でそれを見かけることがあります。
もはや使われることもなく、
ただ寂しげに鎮座するそのお姿には哀愁すら感じます。
これを預かることは今まででも数回しかなく、
今回が最後かもしれません。
土壁と同化しそうなくらい錆びにまみれ、
パッと見何の変哲もないこのハサミ。
さて、何が特別かというと、
とにかく大きい!
・・・・・・・・・・・
なに?
よく解らないですかね。
では普通の剪定ばさみと並べてみましょう。
ちなみにこの剪定ばさみも大きい方です。
剪定ばさみですら小さく見えるこの大ばさみ、
一体何のために作られたのでしょうか?
ちょっと別のお話
最近ではあまり見かけなくなった茅葺(かやぶき)屋根のお家です。
茅葺屋根とは
茅葺(かやぶき、萱葺)とは、茅(ススキやチガヤ、ヨシ(アシ)などの総称)を材料(屋根材)にして家屋の屋根を葺くこと。またその屋根。茅葺き屋根、茅葺屋根ともいう。ただし、茅葺き屋根の一部(下地等)には稲藁や麦藁を屋根材に含むことが多い。
wikipediaより
今ではほとんど見かけないかやぶき屋根のお家。
あったとしてもトタンや鉄板をかぶせてあったりと
むき出しの屋根を見ることはありません。
さっきのハサミはここで使われていました。
その名も【屋根鋏】(やねばさみ)
屋根を葺(ふ)く時に使われていたものです。
現在は建築基準法により茅葺屋根は作ることができないので、
使用している風景を垣間見ることはほぼありません。
察するに萱の寸法を整えるときにこのハサミで
切断していたのではないでしょうか?
話は戻って
依頼主の父親が大工さんだったらしく、
納屋で眠っていたこのハサミ。
形見なので使えるようになれば、ということで
気合を入れて研ぎ直させていただきました。
昔の職人さんが造った一点物という感じが伝わってきますね。
大きいですが刃の合いもよく、切れ味よさそうです。
ウチの親父の話では藁などの柔らかいものはよく切れて、
固い枝などには向かないという事。
やはり屋根バサミ、茅葺屋根専用のようです。
昔はこのように細かい用途に分かれていろいろな道具がありましたが、
最近は機能を集約させた合理的な道具が増えたような気がします。
役目を終えて消え去っていく道具達をできるだけ
記録に残しておきたいですね。
ではまた何かあれば・・・