鍛冶屋のスチームボーイ
製造から販売まで全て自分でこなす瀧川鉄工所なのですが、さすがに柄は自分で作ることはできません。なので柄は問屋さんから仕入れています。
ある日、柄を届けてもらった時に柄の曲がり直しの話になった時の事です。
「さすがに鋤簾の柄だけは直せないですね。今まで直そうとして何本折ったことか・・・」と私が言うと、彼はニヒルな笑みを浮かべ、
『あれは蒸すんですよ。焼くんじゃ無くてね。』
「蒸すんですか?」
初めて聞く方法です。詳しく聞いてみると、
まず、大きめのストーブに水を入れた鍋かやかんをかけ、沸騰させます。
沸騰したときの吹き上げる水蒸気に柄の曲がった部分に5~10分ほどあてておくと柄が柔らかくなって無理せずに直す事が出来るそうです。
今までは曲がった部分に水をかけて火で炙って直していましたが鋤簾の柄は焦げやすく、ちょっとでも無理をするとすぐに折れてしまいました。
なので鋤簾の柄だけは直す事を諦めていたのです。
「おお、それは良いことを聞きました。目からウロコですね。」
と言ってはみたものの、 にわかには信じられないのでとにかくやってみることにします。
実践編
コレが我が家のストーブですが、まあ一般的な大きさですかね。ヤカンの水が沸くまで1時間半はかかります。ですがぐつぐつと沸騰するほどの火力はありません。
そして、曲がった鋤簾の柄、もちろん新品です。画像ではわかりにくいですが、少しお辞儀するように曲がっています。これをフタをあけたヤカンのうえに固定して水蒸気に当てるようにしながら10分ほど放置しておきます。
10分後
お、水蒸気が当たっている部分が濡れたように色が変わっていますね。触ってみると暖かく湿っているのがわかります。
かるく体重をかけるようにして直してみるとまだ直るような気配はしませんね。まだ全体に水分が回ってないような感じです。なので少し位置を下げてもう少し置いておきましょう。
20分後
色が変わった部分が大きくはなったようですが、まだ熱が足らない気がします。案の定まだ直りません。なので柄の位置を下げてヤカンに直接乗せるようにしてみます。そして、ときどき回転させて全体に水分と熱が行き渡るようにしてみます。
40分後
大分熱と水分が行き渡ったようなので直してみると、お、直りますね。言われたほど柔らかくはなりませんが折れるリスクをかなり減らせます。最初に比べると曲がりはほとんど気にならなくなりました。画像では分からないですがね・・・。
総括
やはり、重要なのはストーブの火力といかに水蒸気を効率よく当てるかですね。あとは根気ですか(笑)火力がなくても時間さえかければなんとかなりそうです。ただただ時間がかかる・・・。商売としては出来ませんね。
とはいえ、直って良かった。この企画がお蔵入りになるところでしたよ(完)